麻酔とストレッチャーへの恐怖10/09/2005

 私は過去に怪我で長期入院した経験があります。その頃の入院体験がずっとトラウマとなっていたため、今回、自分が卵巣腫瘍にかかり手術をしなくてはならないとわかったとき、真っ先に 「麻酔」と「ストレッチャー」が頭に浮かび、これらに対する計り知れない恐怖感がよみがえりました。私の麻酔とストレッチャーに対する恐怖心はかなりのものです。

 しかしながら、この恐怖、今回の入院体験で少しだけ克服できたように思います。それは、今まで「こわいこわい!」と思っていたこれらが、実際に体験・再体験してみると「そうでもなかった」という結果に終わってくれたからです。正直ちょっと自信がつきました。これは私の人生においてものすごく大きな成果であり、大きな精神的成長だと思います。(大袈裟に聞こえるかもしれませんが、私は大マジです)

 結局、とどのつまりは、恐怖はやっぱり体験をもって乗り越えるしかないということなのでしょうか。でも、なによりお医者さん側の私の恐怖に対する理解と協力のおかげです。(感謝しています。)

 ひょっとしたら、私以外にも麻酔やストレッチャーに対して、私に負けず劣らずの恐怖を抱いておられる方がいらっしゃるかもしれません。そういったときは、まず臆することなくお医者さんにその不安・疑問・希望を口に出してみることです。私のようなチヂミまくりのヘタレ患者も、それによって“恐怖”を部分的にでも克服できたので、どうか勇気を持って麻酔とストレッチャー乗車に挑んでくださいね。

■麻酔への恐怖  ■ストレッチャーへの恐怖





■麻酔への恐怖

以前怪我で入院していた時、整形以外の患者さんと相部屋でした。その中には手術をされる方も多く、彼らが手術室から帰ってきた後の状態をマザマザと見せつけられていました。みなさん、麻酔から目が覚めだすと激しい吐き気と激しい頭痛やめまいの嵐。自分は複雑骨折じゃなく、スパッと折れていたので「絶対安静の手術無し」で済みましたが、「もし手術だったら...?」と考えると怖くて、それに過去に抗生物質で気分が悪くなったことがあったので、「たぶん私は麻酔は耐えられない。きっとアナフィラキシーを起こすかも...」と思い込み縮んでいました。

最近でも、麻酔による医療事故、医療訴訟についての報道を時折耳にします。今年に入って、よりにもよって卵巣腫瘍での死亡事故・医療訴訟
のニュースを耳にしていたので、自分が卵巣腫瘍にかかり手術が必要と知った時、この死亡事故のニュースが頭をよぎり、手術前の麻酔に対する恐怖はピークを超えていました。



医療ミス・医療訴訟:2004年10月に愛知県祖父江町のJA系病院である尾西病院で子宮筋腫と卵巣のう腫の摘出手術中、麻酔を兼ねた人工呼吸器の管 が外れたせいで女性患者(33)が意識不明となり死亡していたとのニュース。病院側はミスを認め遺族に謝罪。



ところで、恐怖を増長させていた上記の医療事故、どうやら麻酔科の先生がついていなかったみたいです。そういうのはちょっと怖いですね。私が手術を受けた大学病院では手術に麻酔科医は不可欠ですし、麻酔科医のいない手術は考えられないそうです(麻酔科の先生談)。そういう意味で大きな病院で手術を受けてよかったです。それに、麻酔科の先生が術前術後に病室まで来てじっくり話を聞きに面談に来てくれたりしたので、精神面でも安心して(いい意味で諦めて)挑めた気がします。

当然のことですが、担当の麻酔科の先生は、今までのアレルギー体験(以前抗生物質や風邪薬で気分が悪くなったことがある)を事細かに質問し、それ以外にも私の不安・疑問・希望をめんどくさがらずじっくり聞いてくれた上、わかる言葉で説明してくれました。もちろん、上記の医療ミス事故のこととかも聞きましたし。会話はやはり大切です。


さて、手術当日。私の手術では、全身麻酔硬膜外麻酔を使いました。通常の場合、『意識下のもと背中に硬膜外麻酔を打ち、その後に全身麻酔をかける』 のだそうですが (後日オペ室看護師さん談)、私の場合、「背中に打つ硬膜外麻酔は痛いので、先に眠ってもらってから打ちますね。」とのことで、『全身麻酔を先にして私が眠ってから、背中に硬膜外麻酔』を打ちました。

きっと、麻酔に対して異常なほど怯える姿を術前にみて、麻酔科の先生があえてこの順序にしてくれたんだなぁと思います。先生に感謝です。だって、この順序のおかげでかなり恐怖が半減したのは事実でしょうから。多分、意識下で背中に硬膜外麻酔を先に打っていたら、大変なことになっていたと思います。精神的不安・苦痛が及ぼす生理的変化って侮れないですから。

私を担当してくれたこの麻酔科の先生、麻酔の濃度調整も素晴らしく、「麻酔の効き」も「麻酔の覚め」も最高に良いものでした。術後ポンポンと肩をたたかれ、「終わりましたよ」といわれ目を覚ました時なんかも全然ポヮーッとしていませんでしたし、目覚めると同時にすぐ覚醒しました。それプラス手術後、「めまい」の「め」の字も、「頭痛」の「ず」の字ありませんでした。以前入院していた時、めまい、頭痛、嘔吐の3本柱で苦しむ術後の患者さん
をみてきていたので、拍子抜けしたほどです。

ちょっと調べてみましたが、こういった副作用が出るのは脊椎麻酔の場合が多いらしく、ひょっとしたら以前入院していた時にめまい、頭痛、嘔吐の3本柱で苦しむ術後の患者さんらに使われた麻酔と私に使用された麻酔(全身麻酔・硬膜外麻酔)は違うタイプのものだったかもしれません。)

このように、麻酔について、手術について「恐怖に思うこと」、「不安に思うこと」、「疑問に思うこと」はすべて手術前の先生との面談で話し、相談しておくことをおすすめします。そうすることで、不安を少なくできるし、今回のように多少対策を考えてくださるかもしれません。聞き分けのいい患者になる必要はなく、ちょっとうるさい、めんどくさい嫌な患者だと思われる程度で丁度いいんですから。


10/9/2005記
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■ストレッチャーへの恐怖

やはり、怪我で入院する羽目になった時、救急室から病室へ運ばれる時に乗せられたのがストレッチャーでした。腰のあたりの骨折で全身まんべんなく打撲、かつ首は鞭打ち状態。仰向けにされるだけで目がグルグル回ってしまうような状態でした。

そんな状態なのに、結構なスピードで看護師さんがストレッチャーを走らせ、曲がり角もマナーの悪い車の運転手の如く減速せずにキュッ・キーッと曲がったりして、私の視覚情報も平衡感覚もそのストレッチャーの動きについてゆけませんでした。仰向けの状態だと実際のスピードよりも数段速く感じますし、鞭打ちだったせいもあるのでしょうが、とにもかくにも天井が目の前を通過する速度だけで気分が悪くなりました。

私の場合、基本的に視覚情報と平衡器官からの情報、そして触覚や体性感覚などから想定される状態と実際の状態が違うと、精神的にかなりの混乱が生じます。だから、進行方向と逆向きの電車の座席に座るとまず心的に混乱を起こし気分が悪くなります。ですから、乗車してもかなり動揺し、「怖い」という感情に支配され続けるので、そういった乗り物に慣れることはあまりありません。ストレッチャーはいわばそれのハイグレード版、そりゃあ恐怖も一筋縄ではいきませんでした。

もともとジェットコースターもコーヒーカップもメリーゴーランドも、とにかく受動的な乗り物は大っ嫌いな私。ただでさえ目が回っている状態の上に、更なるストレッチャーのスピードで心身ともに本当に縮んでしまいました。この体験以来、ほとんど梅干をみて唾液が出るのと同レベルの条件反射で、ストレッチャーを見るだけでその時の恐怖がよみがえるようになってしまいました。

そんなこんなで、大学病院初診以来、再診ごとに「手術室までのストレッチャーを何とか『仰向けじゃなくてうつ伏せ』か、『車椅子』かに変更して欲しい。」と懇願し続けてきました。毎回、診察の最後に一言残していくのです、「ストレッチャーにはできれば乗りたくない」と。かなりめんどくさい嫌な患者だと思われていたに違いありません。でも、麻酔のところでも書いたように、嫌な患者で丁度だと思っています。うるさい患者が言った事でも一応毎回カルテに残るでしょうし、要請や質問をしない何も言わない患者だったら、あまり対策も考えてもらえなかったかもしれません。

結果は、婦人科の先生が麻酔科の先生に伝え、麻酔科の先生が上司と相談してくれたおかげで、『車椅子で手術室入り』の許可が出ました。ちなみに、手術後病室に帰るにはどうしてもストレッチャーに乗らなくてはなりません。でも、先生の話だと「麻酔が効いてて何がなんだかわからないから大丈夫」とのことでした。 実際は...、麻酔科の先生の腕が良すぎ、ものすごく麻酔からさめた状態での乗車となりました。以前ほどの恐怖はありませんでしたが、やはりシャーッと動く天井を眺めていくのは「ちょっと嫌な気分」でした。なので、手術終了直後にもかかわらず、自分で頭を上げ進行方向を見ながら病室へ。頭を上げて視線を前方に向けていたおかげで、目をまわすことなく病室までたどり着くことが出来ました。もし、天井見たままだったらどうだったのでしょうか?とにかく、昔のような「恐怖の目まい」に襲われなかったので本当にラッキーでした。

後日、麻酔科の先生には、『今まで私が担当した患者さんの中で、こんな風にストレッチャーにこだわりを持たれた方は初めてでした。どうしても乗らなくてはならないものとして捉えてらっしゃる患者が大半ですから。でも、それで手術に対する患者さんの不安を軽減できたのなら申し分ないし、こちらとしてもよかったです。」と言われ、改めてお医者さん側が私の恐怖に理解を示し、対処してくれたことに感謝しました。

手術しなくてはならないっていうだけでもかなり不安な気持ちなのに、それ以外のいらない不安を背負いながら手術には挑みたくありません。だから、お医者さんに臆することなく、「不安・疑問・希望はなんでも口に出して相談してみること」は大切なことだと思います。
10/9/2005記
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